2020年12月23日水曜日

次の本ができるまで その186

 警句のような


誘惑

ウインクを送ったら、女が親切にもまぶたの下になにかできているのではと聞きに来てくれる。そんなとき、男は自分がもう若くはないことに気づく。



愛情

二年前から熱愛していた男にこころならずも身を任せるよりも、二度しか会っていない男と

教会で三言ばかりラテン語をしゃべっただけでベッドに入る方がずっと猥褻である。



病気

元気な人々は、それと知らない病人である。



医学

医学はこの一世紀、絶え間なく進歩してきた。何千という新しい病気を発明することによって。



風邪

風邪は治療すれば七日間続くが、もし何もしなければ一週間続く。



ヒッチハイクをする女

ヒッチハイクをする女とはたいていの場合、美人で短いスカートをはき、あなたが妻と一緒に

車に乗っているとき道路に現われる若い女性である。



会話

自分の妻に向って夫が言った。「ぼくたち二人のうちどちらかが死んだら、ぼくは田舎へ行って暮らすつもりだ。」


※唇の端が少し上がるぐらいの笑顔を期待して。

2020年12月17日木曜日

ライナー・マリア・リルケ 森鴎外訳『駆落』

 『駆落』 ライナー・マリア・リルケ 森鴎外訳


明治45年「女子文壇」に発表された短編です。
年若い恋人同士のアンナとフリッツは親に交際を禁じられたことに反発し、二人でどこか遠くへ行く計画を立てます。アンナから、明日の朝駅で待っているという手紙を受け取ったフリッツは、荷物をまとめ家出の準備を始めますが、待ち合わせの時間が近づくにつれて気持が揺らいできます……。


※生の葱を囓ったような苦い味がする作品でした。(個人的な感想です)

2020年12月14日月曜日

次の本ができるまで その185

 警句いくつか


神童

それは多くの場合非常に想像力の豊かな親をもった子供のことである。


大衆

大衆は真実も単純さも好まない。彼らが好むのは作り話といかさま師だ。


怠惰

怠惰とは、何もしないでいる時間をもっとふやすために午前六時に起きることである。


寛大さ

寛大さは無関心の最悪の形態である。


幸福

幸福であるだけでは十分でない。他人が不幸でなければならない。


老い

老いることは、いまだに長生きする唯一の方法である。


※たまには夜空をながめて見よう。

2020年12月8日火曜日

次の本ができるまで その184

万能川柳


先日、毎日新聞の万能川柳に投句したところなぜか掲載されました。調子に乗って2、3回続けてハガキを出しましたがそれ以降はダメだったようです。



※すみません。なんか自慢しているみたいで。

2020年12月4日金曜日

次の本ができるまで その183

笑話


アイスランド語の「羊」はデンマーク語の「子」と似ている。

デンマーク妃アレクサンドリアがアイスランドの植民地のエピスコポス(僧官)を訪うたとき可笑しいことがあった。

妃「子供は何人おもちです。」

僧「二百おります。」

妃「お世話が大変でしょう。」

僧「なに、草原に放して置いて片端から食べます。」


                             「椋鳥通信」より


※お後がよろしいようで。

2020年11月26日木曜日

次の本ができるまで その182

 画中画


絵画の展示会(即売会?)を描いた作品でしょうか。見たことのある貴重な絵画が室内を埋め尽くしています。いやーすごいなあ、そっくりに描けるんだなあ、といかにも素人らしい感想しか言えないのが悲しいです。聞きかじりですが、著名な画家の目録に作品名が記載されているにもかかわらず所在不明の作品が、画中画に描かれていたという話を聞いたことがあります。真偽のほどは定かではありませんが。

ヨーハン・ゾファニー The Tribuna of the Uffizi c.1777


ダフィット・テニールス(子) Archduke Leopold William in his Gallery at Brussels c.1650


ヴィレム・ファン・ハーヒト Apelles Painting Campaspe c.1630


※それにしても気が遠くなるような仕事ですね。

2020年11月22日日曜日

次の本ができるまで その181

着物姿


昔の本にでてくる女性はたいてい着物を着ています。
たとえばこんな感じです。(出典は忘れましたが、たぶん泉鏡花だと思います)


黒塗の艶(つや)やかな、吾妻下駄(あずまげた)を軽(かる)く留めて、すらりと撫肩(なでがた)に、葉に綿入れた一枚小袖、帯に背負揚(しょいあげ)の紅(くれない)は繻珍(しゅちん)を彩る花ならん、しゃんと心なしのお太鼓結び。雪の襟脚(えりあし)、銀の平打(ひらうち)の簪(かんざし)に透彫(すかしぼり)の紋所、後毛(おくれげ)もない結立ての島田髷(しまだまげ)、背高く見ゆる衣紋(えもん)つき、備わった品の可(よ)さ。(後略)
など、たぶん美しい女性であることは想像できますが、着物の知識がないわたしは、その容姿を具体的にイメージできません。残念です。


同じ鏡花の作品に「当世女装一班(とうせじょそういっぱん)」というのがあります。
女性が身につける衣装をひとつずつ解説したものです。
モデルは西鶴の「一代女」にでてくる理想の美人です。


「年は十五より十八まで、當世顏は少し丸く、色は薄花桜(うすはなざくら)にして、面道具(おもてどうぐ)の四つ、不足なく揃ひて、目は細きを好まず、眉厚く、鼻の間狭(せは)しからず次第高(しだいだか)に、口小さく、歯並(はならび)あらあらとして皓(しろ)く、耳長みあつて緣淺く、身を離れて根まで見え透き、額はわざとならず自然の生えどまり、首筋立ち伸びて、後れ毛なしの後髪(うしろがみ)、手の指はたよわく長みあつて爪薄く、足は八文三分に定(さだ)め、親指反(そ)つて裏透きて、胴間(どうのあいだ)常の人より長く、腰しまりて肉置(ししおき)逞ましからず、尻付豊やかに、物腰、衣裳つきよく、姿に位(くらい)備(そな)はり、心立(こころだて)おとなしく、女に定まりし藝優れて萬に昧(くら)からず、身に黒子(ほくろ)一つも無きを望み……」


この女性が入浴後身につける衣服を順番に解説しています。興味のある方は探してお読み下さい。


※八文三分はいまの20cm、かなり小さいですね

2020年11月18日水曜日

次の本ができるまで その180

 花押


花押はいわゆるカキハンである。この書き判はその穴の数によってその人々の性に五行の木火土金水の相生相克比和を考えて文字を決める。この点と画は梵字悉曇の崩しだと云う説もあるから吉凶を生じる理のないことでもない。弘法大師は三界のもの一切みな文字であるといったのはこの事であろう。(解説本より)



※単なるサインとは違う意味があるようです。

2020年11月6日金曜日

次の本ができるまで その179

生と死と


死生に関する警句をいくつか




人生は一種の死病である 

ルイ・ニュセラ



ゆりかごから柩までは1メートルしか離れていない 

不詳



彼が自分の墓に刻んで貰うのを《見たがった》墓碑銘

《助けてくれ!》 

ジャック・スタンバーグ



家番の戸口から盗んできた次のような張り札が、墓の上にぶらさげてあった。

─《すぐ帰ります》 

不詳



遺書

余、ヴォランスキーは、死期の近いことを知って、この遺書を認める。それは余の家族に対する余の評価が、余の彼等に遺贈するものの少なさに比例することを知って欲しいためである。

余が最愛の妻に対しては、庭の奥の小屋の床下にかくしてあるポルノ写真をおくりたい。彼女と嘗て一度も共にしたことのないあらゆる痴態について彼女に感謝するために。

弟のルイに対しては電気鋸をおくりたい。余のため嘗て一挙手一投足の労も取ったことのない彼が、この鋸で片腕を切り落とすことを願いながら。 

ジョルジュ・ヴォランスキー



アメリカで、数十発の弾丸を撃ちこまれて暗殺された黒人の死体を見て、人種差別主義者の保安官が宣言した。

─《なんというむごい自殺だろう!》 

不詳



※世の中は市の仮屋のひとさわぎ誰も残らぬ夕暮れの空 

2020年10月23日金曜日

ツルゲーネフ『老婆』

 『老婆』ツルゲーネフ


ツルゲーネフは、ドストエフスキー、トルストイと並んで、19世紀ロシア文学を代表する文豪といわれています。日本に登場したのは明治初期で二葉亭四迷によって翻訳・紹介されました。今回は晩年の詩文集『散文詩』より「対話」「乞食」「老婆」「だれの罪」「のろい」を掲載しました。前回の「宿命」とどちらを先に作るか迷ったのですが、こちらが後になりました。作品の世界は共に通じるものがあります。興味のある方のために「乞食」を載せておきます。




※表紙はジョルジョ・モランディ(Giorgio Morandi, 1890年 - 1964年)

自宅の居間か書斎(どちらもないけど)に飾りたい絵です。

2020年10月19日月曜日

次の本ができるまで その178

 上田秋成 秋の歌五首


晩年の秋成が嵯峨野の厭離庵で詠んだものです。



※歌と関係ないけど鍋焼きうどんが食べたい

2020年10月8日木曜日

次の本ができるまで その177

無題85


寺田寅彦の短文です。
芭蕉と歌麿がレストランで食事をする様子を描いたちょっと変わった作品です。


横組のテキストにすると雰囲気が損なわれるので、画像にしています。読みづらくてすみません。

2020年10月2日金曜日

次の本ができるまで その176

つくり直し(2)


前回に続いて2冊つくり直しました。


老人 ライネル・マリア・リルケ 森鴎外訳 2015年5月8日掲載
やりなおしたにもかかわらず物足りない出来です。表紙はスミ1色だとさみしいのでクレーの絵を貼り付けました。



てがみ・二十一のことば アントン・チェーホフ 2015年6月29日掲載
前回も2冊まとめて函にいれていましたが、ゆるくて傾けると滑って落ちてくるのが不満でした。本体は前につくったものを生かして版面を調整し、できるだけ小さくつくりなおしました。多少不細工ですが函にはきちんといい具合に収まりました。めでたしめでたし。

※一番気になるのは本の開き具合ですが、印刷の濃淡、字面の傾きなど言い出せばきりがありません。そんななか、このごろやっと紙を重ねて垂直に切れるようになりました。

2020年9月28日月曜日

次の本ができるまで その175

自殺倶楽部


露国には自殺倶楽部が出来ていると噂せられる。会員はいつでも自殺することを厭(いと)わぬという約束をしている。集会の時に虎と猟人と言う遊びがある。男女を一組にして籤引(くじびき)で虎と猟人とにする。室内を暗くする。虎になったものは衿(えり)に鈴を付ける。猟人になったものは拳銃を持つ。他の会員は危険のない処に避けて見物する。そこで虎が逃げまわる。鈴の音をあてに猟人が追いまわって射撃をする。六発打って中(あた)らなければ、虎と猟人とが入れかわる。一人死なねば止めぬのである。又シャンパンに二十本に一本の割でモルヒネを沢山入れて、会の席で飲む。先ずこんな風にして遊びながら自殺するというのである。

                             「椋鳥通信」より


※遊びにしては怖すぎる。よいこはまねをしないでね。

2020年9月22日火曜日

次の本ができるまで その174

 知者不言 言者不知


言う者は知らず 知る者は言わず。

よけいな、不確かなことを喋々するほど、見苦しきことなし。

いわんや毒舌をや。

何事も控え目にせよ、おくゆかしくせよ、むやみに遠慮せよとにはあらず。

一言も時としては千金の価値あり。

万巻の書もくだらぬことばかりならば糞紙に等し。


損得と善悪を混ずるなかれ。

軽薄と淡白を混ずるなかれ。

真率と浮跳とを混ずるなかれ。

温厚と怯懦とを混ずるなかれ。

磊落と粗暴とを混ずるなかれ。

機に臨み変に応じて、種々の性質を表わせ、一有って二なき者は、上資にあらず。

                           (夏目漱石『愚見数則』より)


※たぶんこれは掲載していないと思いますが、ダブっていたらゴメンナサイ。

2020年9月15日火曜日

次の本が出来るまで その173

つくり直し 




たまった紙の再利用を兼ね、以前の樹脂版を使っていくつかつくり直すことにしました。前と同じものを作っても面白くないので、気になる箇所を修正し、体裁を変えました。良くなったとも思えませんが、時間つぶしにはなりました。


 冬日の窓 永井荷風  2015年5月12日投稿 
仕上がりが気に入らないので、つくり直しましたが、まだ心残りがあります。 額に入ったミレー風の絵画のつもりですが、冬というより秋のかんじです。 


黒猫 餅饅頭 薄田泣菫  2015年5月15日投稿
紙が厚く本が開きにくいので、70kgの書籍用紙にしました。ずいぶん薄くなりました。 表紙は色がもうひとつです。


 『葡萄畑の葡萄作り』『榛のうつろの実』 ジュール・ルナール  2016年5月5日投稿
これはどれよりもつくり直したいものでした。本文の文字が大きすぎるのですが、 そのまま使っています。色違いの紙で表紙をつくり2冊をいっしょに箱に入れました。 背文字を入れなかったのが悔やまれます。

 
 

道理の前で フランツ・カフカ  2015年12月24日投稿 
マッチ箱にいれた小さな本ですが、紙が厚く本が開きにくいので、書籍用紙にして、函にいれました。

 ※でき上がると良くないところばかりが眼につき、すこし嫌いになります。

2020年8月28日金曜日

次の本ができるまで その172

社会のしくみ


政治家
政治家とは、私の利益のために国事を運営する人のこと。

法律
法律とは、大きなハエが通り抜け、小さなハエがつかまる蜘蛛の巣。

「まだ絶望ではない」と大きな声で言ってみるのはいいことである。もう一度「まだ絶望ではない」と。
  しかしそれが役にたつだろうか。 『マルテの手記』

2020年8月21日金曜日

次の本ができるまで その171

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー


画家のホイッスラーが、こんな風に断言している──
「作品の制作のさいに使われたさまざまな手段の痕跡が、いっさい消滅したとき、その絵は完成したのだ。芸術にあっては、仕事に熱中することは美徳などというものではなく、欠くべからざる必要なのだ。制作のさいの何らかの痕跡がまだ残っているかぎり、それは努力の不足を立証するものにほかならない。ただ努力だけが、努力の痕跡を消しうるのである」。

「ノクターン:ソレント」1866

「灰色と黒のアレンジメント No.1」1871

※努力だけが、努力の痕跡を消しうるという言葉に惹かれて。

2020年8月16日日曜日

散文詩集「宿命」萩原朔太郎

散文詩集『宿命』 萩原朔太郎


今回は萩原朔太郎の散文詩集『宿命』より「宿酔の朝に」「田舎の時計」「貸家札」「神々の生活」「自殺の恐ろしさ」「戦場での幻想」の六篇を収録しました。

「散文詩」とは文字通り「散文」の形式をかりて表現された詩のことですが、規則的な詩法に基づいた「韻文」に対してその定義はあいまいです。詩的精神をもって書かれた短い文章、ということらしいです。

 

※扉の紙質がちょっと違うような気がしています。


※ホントどうでもいいことですが、前回の「指輪」の表紙が気に入らず、タイトル文字を縦書に修正しました。