2020年7月9日木曜日

次の本ができるまで その167

芭蕉歌集



芭蕉の短歌を集めて掲載します。


 題知らず
捨てぬ間に捨てらるる間の思い出を知らでや人の真(まこと)とは云ふ

 鄙歌 自得
思ふこと二つのけたる其あとは花の都も田舎なりけり

 骸骨讃
みな人の是れをまことの形ぞと知らば此身が直ぐに極楽

 題しらず
網雑魚(あみざこ)を升(ます)に量りて買ふ人は売る人よりも哀れなりけり

いのししの麦食ふことはさも無くて米食ひ荒す人の憎さよ

 無名庵の帰りに雪にあうて申しつかはしける 去来
かさすてて尻からぐべきかげもなしでつちもつれぬ雪の夕ぐれ
 かへし 芭蕉
笠さして尻もからげずふる雪に定家の卿もはだしなるべし

 羽紅が尼になりける時に申遺しぬ
九重の内には海のなきものを何とてあまの袖しぼるらむ

ふもとより梢にかかる藤の花腹一ぱいのながめなりけり

 俳諧歌
年の夜の更けゆくままに事繁き都の市の音静かなり

寄る年の目にはさやかに見えねども豆の音にぞ驚かれぬる

 田中一閑みまかりて後、谷中の新堀(にひほり)へ初めてまかり侍りて、
訪ふ人も今は夏野の草の原露ばかりこそ友と置くらめ

見れば且つ昔の夢の言草(ことぐさ)を思ひ知られて袖ぞ露けき

人の身の今の習ひを在りし世に知らで過ぎにし人ぞはかなき

 のり姫の君みまかりし後、程無く鈴木主水みまかりければ、
見し夢に夢を重ねて片糸の心細くも思ほゆるかな

見るままにあな現無(うつつな)やあだし野の露と消えゆく夢の世の中

 五月十八日、例の講習にて、かの処へまかり、亡き人を思ひ出でて、
通ひにし人は夏野の草の露その名ばかりは消え残りぬる

いつしかに昔の人と偲ばれて言の葉草に露かかるらん

遁れ住む美濃の小山(をやま)の哀れさを松のあらしに吹きも伝へよ

 落柿舎にて
山里にこはまた誰を呼子鳥ひとり住まんと思ひしものを

※これはこれで面白い。