2023年3月11日土曜日

次の本が出来るまで その271

貴重な存在 Rara avis


作:アントン・チェーホフ


 犯罪小説の作者が刑事と話をしている。

「ひとつ、ならず者や無宿者の巣窟に案内してくださいませんか。」

「お安いご用ですとも。」

「それから、殺人犯の二、三のタイプに引き合わせてください。」

「それも大丈夫です。」

「それと、秘密の魔窟にもぜひ行ってみたいんですが。」

 さらに作家は、贋札造りだの、ゆすりだの、詐欺師だの、夜の女だの、男妾だのに紹介してくれと頼む。

そのどれもに刑事は答える。

「それも大丈夫です……いくらでもいますよ!」

「もう一つお願いがあるんですがね。」最後に作家が頼む。

「小説の中に、コントラストをつける意味で、立派な人間を二、三人ださなきゃなりませんので、ひとつ、申し分ないほど公正な人を二、三人教えてくださいませんか……」

 刑事は天井に眼をやって考えこむ。

「ふむ……」彼はうなる。「いいでしょう。探してみますよ!」



※チェーホフはコントをたくさん書いていますが、よくわからないものも多くあります。私が無知なだけですが。