2022年11月28日月曜日

次の本が出来るまで その262

 結婚シーズンに──ある結婚ブローカーの手帖より──


チェホフ


クーチキン、イワン・サーヴィチ(男)

 県書紀、四十二歳、ぶ男、あばた、鼻声、だが風采は立派。良家に出入りを許され、陸軍大佐夫人の叔母あり。借金取立てにて生活。ぺてん師だが、全体に立派な男。良家の生まれでフランス語を話す十八~二十歳の娘を物色中。眉目秀麗にして、一万五千~二万の持参金を是非とも必要とす。


フェシキン(男)

 退役将校。酒を飲み、リウマチを病む。看病してくれる妻を望む。寡婦でも可。ただし二十五歳以下にて、財産持ちに限る。


プルドノフ(男)

 写真修正業。抵当に入らぬ、年に二千以上の収益ある写真屋を持つ花嫁を求む。酒を飲むが、常時ではなく、ただし泥酔する。ブルネットにして、眼黒し。


グヌーシナ(女)

 寡婦。家作二軒および現金十万あり。将軍を求む。退役にても可。左眼にようやくみえるほどの白そこひあり。話す時シュウシュウ言う。寡婦だが、実質的には処女。というのは、先夫が婚礼の当日、四肢の震えにかかったからであると断言している。


オンナスキイ、ヂフテリイ・アレクセーイチ(男)

 芝居の役者。三十五歳、身分不詳。父親がウォッカ工場を持つと言うが、おそらくはほら話だろう。常に燕尾服と白ネクタイを着用す。他の衣服を持たぬゆえなり。嗄れ声のために劇団を退く。金さえあれば体型問わず。商家の娘を望む。


マルポチャノフ(男)

 もと二等大尉、官金費消と公文書偽造のかどでトムスク県へ流刑を宣言される。一緒にシベリアへ行く覚悟のある孤児の娘を仕合わせにしたいと望む。貴族の生まれの娘に限る。


※1885年頃に書かれたもの。