2024年2月22日木曜日

次の本ができるまで その300

 たとえ話


 ある男が宮殿に近づく。たったひとつの入口には、気性の荒いフン族の番兵たちががんばっていて、ユリウスという名の人間しか通してくれない。男は番兵たちを買収するために、チキン一等肉一年分を差し上げますと申し出る。むこうは、男の申し出をせせら笑うでもなく、受け入れるでもなく、ただ、男の鼻をつまんで、蝶形ナットのようにねじり上げる。男はぜひとも宮殿の中に入れてもらいたい。皇帝陛下の下着の替えを届けにきたのだから、と訴える。それでも番兵たちに拒絶されて男は、チャールストンを踊りはじめる。番兵たちはこの踊りが気に入ったようすだが、まもなく連邦政府によるナバホ・インディアンの取り扱いのことで、機嫌を悪くする。息もたえだえで、男はばったり倒れる。とうとう皇帝にお目通りもかなわず、八月にスタインウェイの楽器店から借りたピアノの賃貸料、六十ドルを溜めたまま、男は死ぬ。


ウディ・アレンのたとえ話』という短文です。短篇集『僕の副作用』(1981年、CBSソニー出版)、または『これでおあいこ』(同)のどちらかに載っていました。(手元に本がないので確認できません、不悪)