昔の逸話を集めた本を作ろうと考えたことがありました。タイトルは「しかじかの世」。
今回はそこに掲載予定だった話を二つ。
〈大きいものと小さいもの〉
秀吉がある時、連歌師の紹巴を召し、
須彌山に腰打ちかけて大空をぐっと呑めども咽にさわらず
「どうじゃ、これより大きな歌はあるか」と言うと、紹巴ただちに
須彌山に腰打ちかけてのむ人をまつげの先でつきこかしけり
と詠んで秀吉を喜ばせたということです。
また別の時、秀吉が「一番小さい歌を詠んだものに褒美をとらせる」と
言ったら誰かが
芥子粒の中くり抜いて家を建て奥の一間で書見書き物
と詠みました。これを受けて曽呂利新左衛門は
芥子粒の中に家建て書見する人にとまったノミの金玉
と詠み、まんまとご褒美を頂戴しました。
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連歌師宗祇が修行の時の話です。山中で見ず知らずの三人とすれ違った際、
一人が言いました。
一つあるもの三つに見えけり
すぐに宗祇は、
類いなき小袖のえりの綻びて
又次の者が言いました、
二つあるもの四つに見えけり
又宗祇は、
月と日と入江の水に影さして
又一人が言いました、
五つあるもの一つ見えけり
又宗祇は、
月にさす其指ばかり顕わして
三句ともに聞きて後、三人はどこかへ去って行きました。
まさに言葉による真剣勝負の気迫を感じます。