2017年4月30日日曜日

次の本が出来るまで その60

文章の美しさ


谷崎潤一郎が自著『文章読本』の中で志賀直哉の文章をこんな風に書いています。


(前略)氏の文章に於ける最も異常な點を申しますと、それを刷つてある活字面が實に鮮かに見えることであります。と云つても、勿論志賀氏のものに限り特別な活字がある譯はない。單行本でも雑誌に載るのでも普通の活字で刷つてあるのに違ひありませんが、それでゐて、何か非常にキレイに見えます。そこの部分だけ、活字が大きく、地紙が白く、冴えざえと眼に這入ります。これは不思議でありますが、なぜそう云ふ感じを起させると云ふと、作者の言葉の選び方、文字の嵌め込み方に愼重な注意が拂はれてゐて、一字も疎かに措かれてゐない結果であります。そのために心なき活字までが自然とその気魄を傳へて、恰も書家が楷書の文字を、濃い墨で、太い筆で、一點一劃苟くもせずに、力を籠めて書いたかのやうに、グツと讀者に迫るのであります。


※印刷した時の字面が美しいという見方は面白いと思いました。