2020年3月9日月曜日

次の本が出来るまで その155

乞食の歌


『宮川舎漫筆』の中にこんな文章があった。

嘉永五年八月の事なりとかや。下谷山下にて六という乞食死せしところ、
笠の中に詩歌をしるしありし。ある人より写し越しぬ。

一鉢千家飯  一鉢(ひとはち)は千家の飯(めし)。
孤身幾回秋  孤身(こしん)幾回(いくかい)の秋(あき)ぞ。 
夕暖草莚裡  夕(ゆうべ)は暖かなり、草莚(そうえん)の裡(うち)。
夏涼橋下流  夏はすずし 橋下(きょうか)の流(ながれ)
不空遠不立  空(むな)しからざれば 遠く立たず。 
無楽又無愁  楽しみなければ また愁いなし。
人若問此六  人、もしこの六(りく)を問わば、
明月水中浮  明月、水中に浮かぶ

又、

月さへも高きに住めば障(さわ)りあり おきふしやすき草の小莚(さむしろ)
の歌あり。

※諦めというか、悟りというか…。冥福を祈る。