乞食の歌
『宮川舎漫筆』の中にこんな文章があった。
嘉永五年八月の事なりとかや。下谷山下にて六という乞食死せしところ、
笠の中に詩歌をしるしありし。ある人より写し越しぬ。
一鉢千家飯 一鉢(ひとはち)は千家の飯(めし)。
孤身幾回秋 孤身(こしん)幾回(いくかい)の秋(あき)ぞ。
夕暖草莚裡 夕(ゆうべ)は暖かなり、草莚(そうえん)の裡(うち)。
夏涼橋下流 夏はすずし 橋下(きょうか)の流(ながれ)
不空遠不立 空(むな)しからざれば 遠く立たず。
無楽又無愁 楽しみなければ また愁いなし。
人若問此六 人、もしこの六(りく)を問わば、
明月水中浮 明月、水中に浮かぶ
又、
月さへも高きに住めば障(さわ)りあり おきふしやすき草の小莚(さむしろ)
の歌あり。
※諦めというか、悟りというか…。冥福を祈る。