花火
昭和四十年代、夏。関西地方の田舎町。
外で声がする。
あれは隣の家の姉妹の声だ。
テレビの時代劇を見ていた敏夫は
急いで引出しから懐中電灯とりだすと、
サンダルを引っ掛けて外へ飛び出して行った。
二軒はなれた家の前で姉妹が花火を手にしゃがみこんでいた。
水を入れたブリキのバケツが置いてある。
敏夫は懐中電灯を振り回しながら、駆け寄っていった。
敏夫は二人の向かい側にしゃがみこんだ。
地面には小さな花火の束が置いてあった。
「敏ちゃん、はい持って」。
敏夫よりひとつ年下のみっちゃんは花火を手渡すと、ぎこちない手つきでマッチを擦った。
火のついた花火はパチパチと青白く輝き、周りを昼のように明るくした。
「マッチ落としたわ。敏ちゃん、照らして」。
みっちゃんが言った。
「いいよ」。
敏夫は持っていた懐中電灯を点け、みっちゃんの足下に向けた。
懐中電灯の光が、しゃがんだみっちゃんの太ももの間を明るく照らした。
白い下着のふくらみが光の中ではっきり見えた。
敏夫は心臓がドキッとした。
「さあ、これで、おしまい」。
みっちゃんの手には線香花火があった。
敏夫は懐中電灯を地面に置き、押し黙ったまま手にした線香花火のか細い光を見ていた。
薄暗い光の向こう側で、みっちゃんの下着のふくらみが見え隠れしていた。
敏夫はこのまま花火が消えないように願っていた。
しかしすぐに先が丸くなり、やがてぽとりと地面に落ちてしまった。
夜の闇がひろがった。
「あーおもしろかった。」
「バイバーイ。」
姉妹は家に帰っていった。
敏夫も自宅に向かって歩きだした。
が、突然、忘れ物でもしたように、さっきまでいた場所に戻ってきた。
火薬のにおいがかすかに漂い、マッチの燃えカスが地面に散らばっている。
敏夫は同じところにしゃがみこむと、手にした懐中電灯を点け、みっちゃんの座っていたあたりを照らしてみた。
光は闇の中の地面を少し明るくした。
敏夫は膝をかかえ、じっと光の先をみつめていた。
※退屈しのぎに読む短い短い話です。