2024年11月5日火曜日

次の本ができるまで その316

蜃気楼


団地の一角に公園がある。

公園の端には太い大きな木が立っている。

いつからか木の根っこに男物のサンダルが転がっていた。

近づいて上を眺めてみると、鬱蒼と茂った葉と葉の間から、

秋の陽射しを受けて、白く輝く足の裏がのぞいていた。




占い師


 病院のベッドの上で年老いた占い師は、臨終を迎えるところだった。
 途切れがちの息づかいのなか、老人は最後の力をふりしぼって話し始めた。
 「ワシの占いはよく当たった。最後にもうひとつ、大切なことを教えておこう。信じられんかも知れんが、ワシが死ぬと同時にこの地球も消滅するということだ。何もかもが消えてなくなってしまうのだ。慌てても、もう遅い。ワシの占いがそう言っているのだから」
 老人はしばらく前から目が見えなくなっていた。
 そして、この話をしたとき、親族は廊下で葬式の相談をしていた。
 みんなが病室にもどると、老人は口を開けたまま息をひきとっていた。
ベッドのまわりにいた誰かが言った。
「何か言いたかったような顔だね」

※ほんのお目汚しです。