2025年7月16日水曜日

次の本ができるまで その330

 島』 マーク・トウェイン


マーク・トウェインが、ある時ヨットに乗って航游していたことがあった。波の荒い日で、さすがの諧謔作家も青い顔をして、何一つものをいわないで、欄干にもたれたまま泣出しそうな目をしてじっと波を見つめていた。
食堂のボーイは心配して、主人の顔をのぞき込むようにして訊いた。
「大分お苦しそうですが、何かもってまいりましょうか。」
トウェインは咽喉を締められた鴎のような声をだした。
「小さくっていいから、島を一つもって来てくれ。」


※『次の本ができるまで その61』より再録。