2016年8月30日火曜日

次の本が出来るまで その26

いろは唄


「いろは唄」は仮名の手習いとして近代まで用いられました。重複のない四十七音に仏教的な意味を歌い込んだもので、弘法大師空海が作ったと伝えられています。あまり知られていませんが、これ以外にも本居宣長の作ったものや、明治36年、万朝報の懸賞で当選した坂本百次郎の「鳥啼く歌」があります。

※最近頻繁にトップページの変えるのは「すぐ飽きる」からです。



2016年8月18日木曜日

次の本が出来るまで その25

和泉式部と小式部内侍


ある日、和泉式部と娘の小式部は庭を眺めておしゃべりをしていました。
恋の遍歴を重ねてきた和泉式部は
「あーあ、面白いこともないし、いい男もいないし、なんか生きているのがいやになるわ」
こう言ってそばにあった筆と紙を取上げ一首をしたためました。
「お母さん、見せて」
隣に座って猫を撫でていた小式部は、母のほうに向き直って言いました。
母の歌を読んだ小式部はいたずらっぽく笑ながらさらさらと筆を走らせました。
(かどうかはわかりません)


嵯峨本フォントを使ってみました。



2016年8月10日水曜日

次の本ができるまで その24

七十二候(しちじゅうにこう)


「七十二候」とは、「二十四節季」をさらに約五日ごとに分類し気候の変化や動植物の様子を短い言葉で表現したものです。現在ではほとんど知らない事象もありますが、その時期の「兆し」を伝え、繊細な季節のうつろいを感じさせてくれます。以前「七十二候印譜」を作ろうと準備していたのですが、先に作りたいものができたのでやめました。

8月12日から8月末までを掲載します。ああー、早く涼しくならないかなぁ。



2016年8月1日月曜日

アポリネール『アムステルダムの水夫』

アポリネール『アムステルダムの水夫』を作りました。
アポリネール(1880826 - 1918119日)は20世紀初頭のフランスで、いろいろな前衛芸術にかかわった芸術家です。今日では詩人としての名声が確立していますが、はじめは美術批評家として出発し、ピカソやブラックのキュビズム、キリコらのフュチュリズム、そしてオルフィズムやシュルレアリズムなどを次々と世に紹介したことで知られています。
自らも創作活動を行ない、死後に公刊された『カリグラム』(Calligrammes, 1918年)は、文字で絵を描くという斬新な手法で高い評価を得ました。


堀辰雄訳「アムステルダムの水夫」は「死後の許嫁」「ヒルデスハイムの薔薇」「青い眼」の4話とともに昭和11年山本文庫(18)として出版されました。港に降りたった水夫が殺人事件に巻き込まれていくお話ですが、シュルレアリストという言葉を生み出したアポリネールにしてはごく普通のミステリーに仕上がっています。


2016年7月16日土曜日

小川未明『橋の上』

小川未明『橋の上』をつくりました。
小川未明は明治15年生まれの小説家、児童文学作家です。坪内逍遥に師事して、明治40年に発表した短編集「愁人」で小説家としてデビューしました。その後童話に専念し、雑誌「赤い鳥」などに多くの作品を発表、「日本のアンデルセン」「児童文学の父」と呼ばれています。

「橋の上」は『青白む都会』(春陽堂、1918年)に掲載されている短編です。
家へ帰る途中、機嫌の悪い幼子が妻の背中で泣き止みません。すれ違う人たちが眉をひそめるなか、夫婦は子どもの気をそらそうと橋の上へ連れていくのですが……。人の心に生まれる「魔」の瞬間を描いた小品です。本文の印刷はちょっと頑張って2色刷りにしました。


2016年6月25日土曜日

次の本ができるまで その23

ヨギ・ベラ 

1925年5月12日 ─ 2015年9月22日
元ニューヨーク・ヤンキースの捕手。彼の発言はヨギイズム(Yogiisms)と呼ばれ、野球に興味のない人々にも親しまれています。(ウィキペディアより)
いくつか掲載します。



2016年6月13日月曜日

次の本ができるまで その22

スーパーの前で


おじいさんは何かにつまづいた。踊るように二三歩進むと、前のめりに倒れた。提げていた紙袋から今夜のおかずらしいコロッケが二つ地面に転がった。カエルのように這いつくばった姿がおかしかったのか、見ていた誰かが声を押えて笑った。おじいさんは聞こえないふりをして、抱き起こしてくれた人に礼を言うと、拾い集めたコロッケを入れた紙袋を手に、おぼつかない足どりでまたそろそろと歩き出した。


2016年6月2日木曜日

次の本ができるまで その21

前句付け


前句付けとは、出題された七・七の短句に五・七・五の長句をつけるもので、元禄ごろから庶民の間に流行し、のちの川柳の母体となりました。(コトバンクより)

どんなものかひとつ例をあげます。
粋な言葉遊びです。



2016年5月5日木曜日

ジュール・ルナール『葡萄畑の葡萄作り』『榛のうつろの実』


ジュール・ルナールは『にんじん』や『博物誌』で知られるフランスの小説家です。短文を集めた『葡萄畑の葡萄作り』はルナール30歳の作品で、大正13年岸田國士の訳で出版されました。この本の中から「力持ち」「七面鳥になった男」「水甕」「商売上手な女」を『葡萄畑の葡萄作り』として一冊にしました。また同じ本に掲載されていた『榛のうつろの実』の気に入った言葉をいくつか選んで一冊にしました。読んでいると、なるほど芥川が『文芸的な、余りに文芸的な』でルナールを好意的に書いているのも頷ける気がします。少し物足りないので作品を吟味してもういちど作ってみたいと思っています。

※帯の文章がおかしいので赤いボールペンで直しました。また“ルナール”を“ルナアル”と昔の表記のまま使用しているのも間違いです。次に作る時訂正します。不悪。





2016年4月15日金曜日

次の本が出来るまで 19

露伴翁の文章


「文は人なり」という見本のような文章です。




次の本が出来るまで 18

書籍の寸法

書籍の寸法は、横が曲尺にて六寸ならば縦は曲尺の裏の尺にて六寸にすべし。
縦横ともに裏表の尺にて同寸にすべし。
外題は縦は書物の三分二、横は六分一なり。
書物に限らず、縦横ある箱なども裏表の尺にて同寸にすれば恰好よろし。

昔の本に載っていました。覚えとして書き留めておきます。

2016年4月6日水曜日

次の本が出来るまで 17

当たり障りのない話でお茶を濁します。
本を読んでいるとこんな文章がありました。

金、三両。
右、馬代、
くすかくさぬか、こりゃどうじゃ、
くすというならそれでよし、
くさぬにおいてはおれが行く、
おれが行くには、ただおかぬ、
かめが腕には骨がある。

※くす=返す

馬方の亀という男が、馬を三両で売りました。ところが相手の男が、容易に金を払わない。そこで出したのがこの手紙。要件だけを伝える簡潔な手紙の例として載っていたものです。

2016年3月14日月曜日

夏目漱石『変な音』

夏目漱石の短編『変な音』です。
センター試験に出題されたこともあるのでご存知の人がいるかも知れません。
漱石はこれを書く前の年に修善寺で吐血し、生死の境をさ迷いました。運良く回復しますがその後も入退院を繰り返しています。この作品は入院した病院での出来事を綴ったものです。

入院している隣の病室から夜になると変な音が聞こえてきます。それは大根おろしをするような音でした。誰が、何のために……腑に落ちない漱石は音の発生源を考えます。ホラーやミステリーではありません。重症患者の病棟で生死を思う味わい深い掌編です。

思うところあって、体裁を変えた別ヴァージョンを作りました。