奇想変調録 正岡子規
我眼に触れし俳句の中にて趣向又は言葉の奇なる者ある毎に之を抄録し置きしが其数四十種になりければ題して奇想変調録と名づけ春寒き火燵にこもる人々の笑い草となさんとはするなり。(後略)
春
大佛の観音を訪ふ日の永き
梅及び柳さしたる手桶かな
小格子より出す手を握る朧月
吾折々死なんと思ふ朧かな
美の神の抱きあふて居る菫かな
紅梅のやうな唇吸いにけり
夏
睾丸の大きな人の昼寝かな
男蝉小便すれば女蝉も小便す
卯の花に尿のかかる闇夜かな
紫陽花にきのふ紅さして今日はいかに
蚊を焼くとて蚊帳を焼いてしまひけり
秋
甲乙の露まとまりて落ちにけり
蜻蛉や日本一の大眼玉
活版の誤植や萩に荻交る
愚なる処すなはち雅なる糸瓜かな
小便して新酒の酔の醒め易き
冬
冬籠裸体画をかく頼みなき
頭巾取れば強盗なりし按摩かな
禅堂に氷りついてあり僧一人
此寒さ神経一人水の中
睾丸の垢取る冬の日向かな
〔ホトトギス 第三巻第五号 明治三十三年三月十日〕
※選者である子規がいうほど可笑しくないのは、自分のせいか。
0 件のコメント:
コメントを投稿