2021年9月22日水曜日

次の本が出来るまで その213

アンデルセン『月の物語』より  

いたずらな少女


──お月様のお話です──


 昨日のことです家の軒(のき)の間にあるせまくるしい内庭を照らしてみました。

そこには雛鳥が十一羽と、親鶏が一羽いました。

 そこへ小さな可愛らしい少女がやってきて、その鶏どものまわりを、ぐるぐる廻りはじめました。

鶏はびっくりして、コッコッと大きな声で啼きながら、しかしその羽根をひろげて、雛を庇ってやっていました。

 そこへ、お父さんがやってきました。そしてこのいたずらな少女を叱りつけました。

 私はそれきり、この事は忘れてしまって、空をながれ去ってゆきました。

 それから数分の後でしたが、またその内庭を照らしました。今度はまったく静まりかえっていました。

 ところが、突然また例の少女が、足音をひそまえながら、そっと鶏小屋にちかよってきました。そして、閂(かんぬき)をはずして、親と雛の鶏のところにしのび込みました。

寝ていた鶏はびっくりして啼き叫んで飛び廻ります。少女はその後を追いかけ廻すのです。

 私は壁のすき間からそれを眺めながら、どうも仕方のないいたずらっ子だな、と思っていますと、またお父さんがやって来ました。そして、その少女の腕を掴まえながら、さっきより一層ひどく叱りつけました。

 少女は顔をあげて、私をみあげました。その真珠のような瞳からは、大粒の涙が流れていました。

 『お前は何をしているのだ?』

 と、お父さんに聞かれて、少女はまだ泣きじゃくりながら、

 『あたし、鶏さんに、「さっきのことは御免ね」って、あやまりにきたの…』

 お父さんはこの無邪気な少女を抱きあげて接吻しました。

私も、あたりいちめんを月のひかりで接吻いたしました。



※昨日(9月21日)の満月の写真をいれる予定でしたが、月はあいにく黒い雲に隠れて見えませんでした。

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