2024年7月26日金曜日

次の本ができるまで その307

小山内薫『巴里素描』より



ブウロオニュの森


 濡れ場によし。
 殺し場によし。
 朝は独り者の散歩に──
 真昼は子供の遊び場に──
 夕暮れは語らひによし。
 夜更けては、企らみあるものによし。
 春は中年の女と一緒がよし。
 秋は処女と──
 夏は職業婦人と──
 冬は……どんな女とでもよし。



ヴォルテエル河岸


 霧雨。──外套の襟を立てる。
 ──いくら……これ?
 ──ラ・ハルプの文学史……六十法。
 ──さよなら。
 小蒸気の笛。
 ──危ない、滑りますよ、奥さん。



モンパルナスの墓地


 ──黙つてるね。
 ──さうでもない。
 ──何が可笑しいんだ。
 ──可笑しいもんか。
 ボオドレエルの死像の前──
 (人、象徴の森を経て、こゝを過ぎ行き……)
 落葉、落葉、落葉……。


※オリンピックに便乗して。

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