2023年9月3日日曜日

次の本が出来るまで その285

 作り直し


『モナリザ・懸物』 夏目漱石

前のものは天地の余白が多すぎて、しまりのない大きさでした。サイズを調整し、表紙を布にして落ちついた感じにしました。(左は以前のもの、右は作り直したもの)


※作った当初は気にならないところも時間が経つと粗が見えてきます。

2023年8月23日水曜日

次の本が出来るまで その284

 トップページ集 追加


しつこくてすみません。これで最後にします。


※順不同です。

2023年8月11日金曜日

2023年8月4日金曜日

次の本が出来るまで その282

トップページ集 前編


過去に掲載した表紙の写真を並べてご機嫌を伺います。順不同です。

※すっかり忘れているものもあります。

2023年7月18日火曜日

次の本が出来るまで その281

 暗示


 ある時、山沿いの二また道を、若い男と若い女とが、どちらも同じ方向をさして歩いていたことがあった。

 二また道の間隔は段々せばめられて、やがて一筋道となった。見ず知らずの二人は、一緒に連れ立って歩かなければならなくなった。

 若い男は、背には空になった水桶をかつぎ、左の手には鶏をぶら提げ、右の手には杖を持ちながら、一頭の山羊をひっぱっていた。

 道が薄暗い渓谷に入って来ると、女は気づかわしそうに言葉をかけた。

『わたし何だか心配でたまらなくなったわ。こんな寂しい渓谷を、あなたとたった二人で連れ立って歩いていて、もしあなたが力づくで接吻でもなすったら、どうしようかしら。ほんとうに困ってしまうのよ。』

『えっ、僕が力づくであなたに接吻するんですって。』

 男は思いがけない言いがかりに、腹立ちと可笑しさのごっちゃになった表情をした。

『馬鹿をいうものじゃありません。僕はご覧の通り、こんなに大きな水桶を背負って、片手には鶏をぶら提げ、片手には杖をついて、おまけに山羊をひっぱってるじゃありませんか。まるで手足を縛られたも同然の僕に、そんな真似が出来ようはずがありませんよ。』

『それはそうでしょうけど……。』

 女はまだ気が許せなさそうにいった。

『でも、もしかあなたが、その杖を地べたに突きさして、それに山羊を繋いで、それから背の水桶をおろして、鶏をそのなかに伏せてさえおけば、いくら私が嫌がったって、力づくで接吻すること位出来るじゃありませんか。』

『そんなことなんか、僕考えてみたこともありません。』

 男は険しい眼つきで、きっと女の顔を睨んだが、ふとその赤い唇が眼につくと、何だか気の利いたことの言える唇だなと思った。

 二人は連れ立って、薄暗い樹陰の小路に入って行った。人通りの全く絶えたあたりに来ると、男は女が言ったように、杖を地べたに突きさし、それに山羊を繋ぎ、背の水桶をおろして、鶏をそのなかに伏せた。そして女の肩を捉えて、無理強いに接吻した。


※薄田泣菫『草木虫魚』より。偶然キスの話が続いてしまいました。

2023年7月6日木曜日

次の本が出来るまで その280

 無題


※若い二人が深夜の公園でデート、彼女はキスが上手いそうです。

2023年6月29日木曜日

星新一『ボッコちゃん』

 『ボッコちゃん』星新一(お試し制作)


星新一は日本のSF作家です。ショートショート(原稿用紙10枚程度の超短編)を得意とし、その作品数は1000を超えています。平易な文章と性や殺人を扱わない作風が広く支持され、いまも多くの人に読み継がれています。『ボッコちゃん』は有名な作品なので解説は省略します。


(表紙のイラストは画像生成AIで作られたものです)



※AIのイラストを使ったらどんなふうに見えるか、試してみました。

2023年6月9日金曜日

2023年5月27日土曜日

次の本が出来るまで その278

 ゲーテ先生の人生講義


よき人はつねに初心者である。


                  ✕


人の全生涯は

 求めて達成せず、

 達成して求めず

の二つから成り立つ。


                  ✕


わたしたちはだれしも、結局のところ自分の理解できることだけしか耳に入らぬものだ。


                  ✕


きみたちは海に似ている。いろいろ違った名前を与えられてはいても、結局はすべて塩水にすぎない。



※『ゲーテ全集』13を参考にしています。含蓄に富んだ言葉がたくさんあります。


2023年5月13日土曜日

次の本が出来るまで その277

 ゲーテ先生が言うには



処世のおきて



気持ちよい生活を作ろうと思ったら、

済んだことをくよくよせぬこと、

滅多なことに腹を立てぬこと、

いつも現在を楽しむこと、

未来を神にまかせること。


                    ✕


あせることは何の役にも立たない。

後悔はなおさら役に立たない。

前者はあやまちを増し、

後者は新しい後悔を作る。



                    ✕



どんな場合にも、

口論なんぞする気になるな。

賢い人でも無知なものと争うと

無知に陥ってしまう。



                    ✕



耳あるものは聞くべし。

金あるものは使うべし。


※こういう言葉を聞くと少し元気になる。ほんの少しだけ。

2023年5月9日火曜日

次の本が出来るまで その276

山のあなた


カール・ブッセ


山のあなたの空遠く

幸」(さいはひ)住むと人のいふ。


(ああ)、われひとと(と)めゆきて、

涙さしぐみ、かへりきぬ。


山のあなたになほ遠く

幸」(さいはひ)住むと人のいふ。


※今日はいい天気です。絵はクロード・モネの「The Road to Vétheuil」

2023年4月28日金曜日

次の本が出来るまで その275

短い話



 テームズ河の水夫がある女と恋に陥ちたが、金がなくて、彼女に食事をおごることもできなかった。彼は水に溺れている男を認めた。その男はまだ死に切ってはいない。だが生きている男を助けたのでは金がとれない。ともかく彼はその男の服に鈎をかけて引っ張った。男は陸へ上げられた。見ていた一人が、まだ完全に死んではいないといった。水夫は彼をふり向き、口ぎたなく罵った。そして溺れた男を仰向けに横たえて、蘇生しないように見張った。そうして彼は、五シリングを得て、情婦を連れ出した。



                     ✕



 三人の女が裁判所で調べられた。売春婦たちだった。二人は丈夫だったが、中の一人は肺病で死にかかっていた。丈夫な二人は金があったので科料を払ったが、三人目は払えなかった。十四日の拘留。だがじきに二人は、寒い折だったにかかわらず自分らのセーターを質に入れて引き返して科料を払った。二人は病気の女を施療院へやるのを拒んだ。「わたし達で最後を見てやるんだから」と云い、三人は連れ立って売春宿へ帰って行った。彼女たちはそれから一カ月間、死にそうな女の世話をしてやった。彼女は死んだ。二人は葬式費用を払った。そしてその葬式に行って、各々花束を持ち、新しい黒の服を着、霊柩車の後から車を走らせた。



                     ✕


 ある女が、坐って自分の亭主を見つめていた。彼は酔っぱらって寝ていた。それが結婚二十年目の記念日だった。彼と結婚した時、彼女は幸せになれるだろうと思った。怠け者で飲み助で薄情な男と一緒になった彼女の生涯は労苦と惨めさそのものだった。彼女は次の部屋へ行って、毒を飲んだ。聖トマス病院へ担ぎ込まれて彼女は命をとり止めたが、自殺未遂で、裁判所へおくられた。彼女は何んとも釈明しなかったが、娘が証人に立って、母親がなめた労苦をみんな裁判官へ申し立てた。彼女は週十五シリングを受け取る条件で離婚する、という判決を受けた。夫はその離婚に署名し、し終えると、十五シリングを出して「これが最初の一週間分」と云った。彼女はそれを取り上げて亭主の顔へ投げた。「お前さんの金なんか貰うものか」彼女は叫んだ。「それよりわたしの二十年を返しておくれ」 


※S・モーム『作家の手帳』より

2023年4月18日火曜日

ジョージ・オーウェル『絞首刑』

 『絞首刑』ジョージ・オーウェル


ジョージ・オーウェル(1903-1950)は、スターリン体制を戯画化した『動物農場』や未来のディストピア国家を描いた『1984年』などで有名なイギリスの作家です。当時イギリスの植民地であったインドに生まれた彼は、20代のころビルマで警官として勤務していました。『絞首刑』の話は現地で見た死刑執行のようすをもとに書かれたと言われています。




※表紙の縄はすぐ取れそうな気がします。

2023年4月7日金曜日

次の本が出来るまで その274

 『ヘンリ・ライクロフトの私記』より抜粋


 かつてジョンソンがいった。「君、貧乏がけっして不幸なことではないという議論が多いが、そういう議論そのものが、結局は貧乏が明らかに大きな不幸であることを証明している。たくさんお金があれば幸福にくらせる、ということをやっきになって説こうという人間はまずないからね。」

 この率直な、常識の大家ジョンソンの言葉は、誠に人生の機敏をうがっている。(中略)

 「貧乏は」とさらにジョンソンはいった。「全く大きな不幸なのだ。しかも多くの誘惑、多くの悲惨をもたらす不幸なのだ。したがって私は心からそれを避けるよう諸君にすすめざるをえない。」

 私自身は、貧乏を避ける努力をせよという、そんな忠告は不要であった。ロンドン中の多くの屋根裏は、貧乏というこの面白くもない相棒といかに私がいがみあったかを知っているはずだ。貧乏神が最後まで私につきまとわなかったのを私は不思議に思う。それは自然界における一種の気紛れかもしれない。もし気紛れだとすると……しばしば真夜中に眼をさました時などになんとなく私が不安にかられるのも実はこのことなのだ。


            ♟


 時は金なり──ということわざがあるが、古今東西を通じてこれくらい卑俗な諺もあるまい。しかし、これをひっくり返してみると一つの貴重な真理がえられよう、いわく、金は時なり。(中略)金こそは時間なのだと思う。金があれば、私は時間を自分の好きなように買うこともできる。もし金がなければ、その時間もいかなる意味においても私のものとはならないだろう。いや、むしろ私はその憐れな奴隷とならざるをえないだろう。

 金は時間だ。ありがたいことに、この種の買い物をするのには金はわずかでいいのである。あまり多くの金を持っている人は、金の本当の用い方に関するかぎり、金をあまり持っていない人と同じく、生活は苦しいものなのだ。われわれが生涯を通じてやっていることも、要するに時間を買う、もしくは買おうとする努力にほかならないといえないだろうか。ただ、われわれの大多数は、片手で時間をつかみながら、もう一方の手でそれをなげ捨てているのである。


※作者のジョージ・ギッシング(1857-1903)はイギリスの小説家。いつの時代でも金が人生を左右するのか。

2023年3月30日木曜日

次の本が出来るまで その273

 マヨネーズ Mайонез



作:アントン・チェーホフ



役人が賄賂を取った。背徳行為の行われたその瞬間、上役が入って来て、感謝の紙幣の握られた拳を疑わしげにじっと見つめた。

役人はひどく狼狽した。

「ちょっとあなた!」と彼は、拳を開きながら、陳情者に向って言った。

「あなたは私の拳のなかへ何かお忘れになりましたよ!」



                   



ペテルブルグの新聞記者N・Zは、産業博覧会を視察しながら、ふとある展覧場に注意をとめて、何か書きはじめた。

「この二十五ルーブリ札を落としたのはあなたじゃありませんか?」

その展覧場の主人が、彼に紙幣を渡しながらこう言った。

「私が落としたのは、二十五ルーブリ札二枚だったがね!」とっさに記者が言った。

出品人はその頓智ぶりに舌を巻いて、彼に二十五ルーブリ札をもう一枚渡した。

これは小説にあらず、正真正銘の事実である。



※タイトルの意味がわからない。

2023年3月20日月曜日

次の本が出来るまで その272

 志賀直哉の手帳


志賀直哉は帝大生の頃、新しく奉公にきた女中のC(18)に恋心をいだくようになりました。


その思いを書き留めた手帳には


○ Cとの交わりは多少肉欲的になった。

夫婦になろうと約束する前までは余は彼の肉体にふれたのは、或る夜、暗い所で懐中時計を彼から受け取る時に、余の指の先がCの掌にふれた事、これ位なものであった。しかし今は、彼と抱き合って一時間近くも話した。 肉欲的である。(明治40年8月25日)



○ 余は今夜彼とcoupleになった。

余は今日より真に真に真面目にならねばならぬ。この後不真面目であるならば余は大罪人である。地獄に行くべき大罪人である。Cは如何な事情があっても余の妻である。(8月25日)



○ 二人の交わりは漸く肉欲的になりつつある。肉欲程恐ろしいものはない。肉欲程一時的なものはない。而して二人の交わりはその恐ろしき一時的なる肉欲に近づきつつある。(8月26日)



「乃公(おれ)は貧乏するんだがお前貧乏してもいいかい」

「いい事はありませんけれど仕方ありませんわ」

「貧乏はいやか」

「ええ、いやですよ」

「うまいものが食いたいのか」

「うまいものなんかチットモたべたかありませんよ」

「ぢゃいい着物が着たいのか」

「ええ」

「いい着物が着たい」

「ええ、いい着物は着とうございますよ」

「うまいものは食わなくってもいいからいい着物が着たいか」

「ええ」

Cはそれを当然な事のように平気で言った。

彼はたしかに善人である。(8月28日)


                  『志賀直哉全集第十五巻』より



※本人はかなり熱くなっていますが、当然まわりは猛反対し、けっきょくCは実家に還され、この恋は破局を迎えます。