与謝野晶子
『晶子秀歌選』より京都を詠んだ歌を6首掲載します。
※薄暗い京の町並が眼に浮かびます。以前にも掲載していたらごめんなさい。
前のものは天地の余白が多すぎて、しまりのない大きさでした。サイズを調整し、表紙を布にして落ちついた感じにしました。(左は以前のもの、右は作り直したもの)
ある時、山沿いの二また道を、若い男と若い女とが、どちらも同じ方向をさして歩いていたことがあった。
二また道の間隔は段々せばめられて、やがて一筋道となった。見ず知らずの二人は、一緒に連れ立って歩かなければならなくなった。
若い男は、背には空になった水桶をかつぎ、左の手には鶏をぶら提げ、右の手には杖を持ちながら、一頭の山羊をひっぱっていた。
道が薄暗い渓谷に入って来ると、女は気づかわしそうに言葉をかけた。
『わたし何だか心配でたまらなくなったわ。こんな寂しい渓谷を、あなたとたった二人で連れ立って歩いていて、もしあなたが力づくで接吻でもなすったら、どうしようかしら。ほんとうに困ってしまうのよ。』
『えっ、僕が力づくであなたに接吻するんですって。』
男は思いがけない言いがかりに、腹立ちと可笑しさのごっちゃになった表情をした。
『馬鹿をいうものじゃありません。僕はご覧の通り、こんなに大きな水桶を背負って、片手には鶏をぶら提げ、片手には杖をついて、おまけに山羊をひっぱってるじゃありませんか。まるで手足を縛られたも同然の僕に、そんな真似が出来ようはずがありませんよ。』
『それはそうでしょうけど……。』
女はまだ気が許せなさそうにいった。
『でも、もしかあなたが、その杖を地べたに突きさして、それに山羊を繋いで、それから背の水桶をおろして、鶏をそのなかに伏せてさえおけば、いくら私が嫌がったって、力づくで接吻すること位出来るじゃありませんか。』
『そんなことなんか、僕考えてみたこともありません。』
男は険しい眼つきで、きっと女の顔を睨んだが、ふとその赤い唇が眼につくと、何だか気の利いたことの言える唇だなと思った。
二人は連れ立って、薄暗い樹陰の小路に入って行った。人通りの全く絶えたあたりに来ると、男は女が言ったように、杖を地べたに突きさし、それに山羊を繋ぎ、背の水桶をおろして、鶏をそのなかに伏せた。そして女の肩を捉えて、無理強いに接吻した。
※薄田泣菫『草木虫魚』より。偶然キスの話が続いてしまいました。
星新一は日本のSF作家です。ショートショート(原稿用紙10枚程度の超短編)を得意とし、その作品数は1000を超えています。平易な文章と性や殺人を扱わない作風が広く支持され、いまも多くの人に読み継がれています。『ボッコちゃん』は有名な作品なので解説は省略します。
(表紙のイラストは画像生成AIで作られたものです)
よき人はつねに初心者である。
✕
人の全生涯は
求めて達成せず、
達成して求めず
の二つから成り立つ。
✕
わたしたちはだれしも、結局のところ自分の理解できることだけしか耳に入らぬものだ。
✕
きみたちは海に似ている。いろいろ違った名前を与えられてはいても、結局はすべて塩水にすぎない。
※『ゲーテ全集』13を参考にしています。含蓄に富んだ言葉がたくさんあります。
気持ちよい生活を作ろうと思ったら、
済んだことをくよくよせぬこと、
滅多なことに腹を立てぬこと、
いつも現在を楽しむこと、
未来を神にまかせること。
✕
あせることは何の役にも立たない。
後悔はなおさら役に立たない。
前者はあやまちを増し、
後者は新しい後悔を作る。
✕
どんな場合にも、
口論なんぞする気になるな。
賢い人でも無知なものと争うと
無知に陥ってしまう。
✕
耳あるものは聞くべし。
金あるものは使うべし。
※こういう言葉を聞くと少し元気になる。ほんの少しだけ。
山のあなたの空遠く
「幸」(さいはひ)住むと人のいふ。
噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」(さいはひ)住むと人のいふ。