2017年5月24日水曜日

次の本ができるまで その61


 諧謔作家のマーク・トウェインが、ある時ヨットに乗って航游していたことがあった。波の荒い日で、さすがの諧謔作家も青い顔をして、何一つものをいわないで、欄干にもたれたまま泣出しそうな目をしてじっと波を見つめていた。
 食堂のボーイは心配して、主人の顔をのぞき込むようにして訊いた。
「大分お苦しそうですが、何かもってまいりましょうか。」
 諧謔作家は咽喉を締められた鴎のような声をだした。
「小さくっていいから、島を一つもって来てくれ。」

                     薄田泣菫『猫の微笑』より

※動画は去年の使い回しです。だれも覚えていませんように。