2020年1月17日金曜日

次の本が出来るまで その151

奇妙な出来事


志賀直哉の本を読んでいたらこんな文章があった。

──不思議な事もあるものだ。
今日、歌舞伎座へ行って見ると
とってあったのは八ノ一で、黒木、木下、細川が来て居た。
少し遅くなったよ、と云って座へつくと
どうした事か自分は右手に何か紙の切を持って居た。
それは一銭五厘の切手十枚であった。
其手たるや、電車を下りる時、車掌に切符を渡した後、
洋傘をさすに用いたのみ、
どうしてそれが自分の手にあるか、解からん。
何時そんなものを持ったか、第一持っているものの切手であるのも奇妙でならない。
他の三人の裡(うち)で持って来た者があってそれを思わず座る時、
自分がつかんだのかと問えば誰れも知らぬと云う、
そんなものを持って来た覚えなしと云う。
奇妙なこともあったものだ。
その内六枚は其所此所と出す端書に張って了ったが
四枚の残は帰りに考えるにつけ、妙でならず
どうも自分のらしくないから、道で捨てた、
捨てたと云うと罪がないようだが、
実は六枚は用立てたのだから横着な話だ。
自分ながら思えば、余りいい気持ちでもない

※おー、怖ッ。