2019年2月8日金曜日

次の本が出来るまで その120

正常とは


正常というものは、稀にしか見いだされないものである。正常とは理想である。
それは人間の性格の平均から、人がつくりだした絵そらごとであって、そうした性格のすべてを、一人の人間に見いだすことは期待できるものではない。
利己主義と親切、理想主義と好色、虚栄、内気、無欲、勇気、怠惰、臆病、頑固、猜疑など、それらがすべて一人の人間の中に共存していて、もっともらしい調和をなしているのである。


パンドラの箱


あの悪魔をつめこんだパンドラの箱の中に、「希望」を加えた事について、神は定めし忍び笑っていられることだろう。あれが中でも一番残忍な悪魔であることはちゃんとご存知なのだ。つまり「希望」とは、惨めさを最後まで耐え忍ぶように、人類を誘(そび)いてゆくものなのである。

※S・モーム『作家の手帳』より。皮肉屋のモームらしい言葉。