2020年4月4日土曜日

小川未明『ペストの出た夜』

『ペストの出た夜』小川未明


コロナウイルスで世界中が混乱しています。これほどではありませんが明治33、4年頃に東京や横浜でも「ペスト」が発生しました。さいわい大きな流行にはならなかったようですが、社会に大きな影響を与えました。

物語の主人公清吉は神経質で、近所にペストが発生したことを知り不安でたまりません。夜中に薬屋へ鼠取りの薬を買いに走ったり、引っ越すために一日中家を探したり、一人慌てます。のんびり構える妻や近所の人の行動がますます清吉の神経を逆なでします。


※もうこんな話はウンザリかも知れませんね。
 扉画はヒエロニムス・ボスの三連祭壇画「快楽の園」右翼(地獄)のスケッチ。

2020年3月31日火曜日

次の本が出来るまで その159

芥川龍之介の即興歌


芥川が「支那遊記」を大阪毎日に連載していた頃、原稿の催促に返事としてよこした手紙に書かれていた即興歌です。新聞連載の苦痛を訴えています。

その一

怠けつつありと思ふな文債にこもれる我は安けからなく

あからひく昼もこもりて文書けばさ庭の桜ふふみそめけり

去年の春見し長江の旅日記けふ書きしかばやがて送らむ

旅日記とくかけと云ふ君の文見のつらければ二日見ずけり

神経衰弱癒えずぬば玉の夢のみ見つつ安いせずわれは

二伸
マガジン・セクシヨンへはその中に何か書きます。何しろ方々の催促にやり切れぬ故、けふ鵠沼に踏晦し、二三日静養した上、紀行及びマガジン・セクシヨンへ取りかかります。
                            芥川龍之介


その二

原稿を書かねばならぬ苦しさに痩すらむ我をあはれと思へ

雪の上にふり来る雨か原稿を書きつつ聞けば苦しかりかり

さ庭べの草をともしみ椽(えん)にあれば原稿を書く心起らず

作者、我の泣く泣く書ける旅行記も読者、君にはおかしかるらむ

赤玉のみすまるの玉の美(は)し乙女愛で読むべくは勇みて書かなむ

支那紀行書きつつをれば小説がせんすべしらに書きたくなるも

小説を書きたき心保ちつつ唐土日記をものする我は

原稿を書かねばならぬ苦しさに入日見る心君知らざらむ

                           澄江堂主人

二伸
一体ボクの遊記をそんなにつづけてもいいのですか。読者からあんな物は早くよせと言ひはしませんか。(云へばすぐによせるのですが)評判よろしければその評判をつつかひ棒に書きます。なる可く評判をおきかせ下さい。小説家とジヤナリストとの兼業は大役です。


※ 薄田泣菫『樹下石上』より