2022年10月24日月曜日

次の本が出来るまで その259

おどし 

アントン・チェホフ 


ある旦那の屋敷で、馬が盗まれた。

あくる日の新聞という新聞に、次のような声明が載った。

──「もし馬が返されなければ、必要じょう私は、かつて同様な場合に私の父が取ったと同じ極端な措置に訴えねばなるまい。」

おどしは効き目があった。

馬盗人は、何がこわいかは知らないながら、何か異常に恐ろしいことを予想しておびえ、ひそかに馬を返した。

旦那は事件がこんなふうに決着したのを喜んで、友人たちに向かって自分が父親の轍(てつ)を踏む必要がなくなってとても仕合わせだと打明けた。

「しかし、あなたのお父さんは何をなさったのですか?」とみんなは彼にたずねた。

「私の父が何をしたかとおききになるんですね? じゃ言いましょう。……宿屋で馬を盗まれた時、父は自分で鞍を背負って、歩いて家へ帰って来ました。誓って言いますが、泥棒があんなに善良で親切でなかったら、私も同じことをするところでしたよ!」


※かの国の脅しは効果はありやなしや。