2015年7月28日火曜日

夏目漱石『断片』より


◎昔は御上(おかみ)の御威光なら何でも出来た世の中なり
◎今は御上の御威光でも出来ぬ事は出来ぬ世の中なり
威光を笠に着て無理を押し通す程個人を侮辱したる事なければなり。個人と個人の間なら忍ぶべき事も御上の威光となると誰も屈従するものなきに至るべし。是パーソナリチーの世なればなり。今日文明の大勢なればなり。明治の昭代(しょうだい)に御上の御威光を笠に着て多勢をたのみにして事をなさんとするものはカゴに乗って汽車よりも早く走らんと焦心するが如し。


『夏目漱石全集』第13巻(昭和50年・岩波書店刊)

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