2021年6月15日火曜日

次の本ができるまで その204

  芥川龍之介 『SODOMYの発達』 (二)


 清が中学の一年生になった時の事である。

 二級上に勝田と云う男がいた。短い髯の生えかけた、太った男で、色の黒い脂ぎった体は、柔道の上手なのを示していた。この男が何と云う事なく、清と親しくなった。
 柔道の道場へゆくと、親切に稽古をしてくれる。算術の宿題でむずかしいのがあると、教えてくれる。学校から帰るときも又、一緒に帰ってくれるのである。
 所がある夜、ふいに勝田が清の家へさそいに来た。近所の大師様の縁日へ行こうと云うのである。清はすぐに承知した。そうして一緒に外へ出た。
 勝田は自分の腕と清の腕と組んで歩いた。この男とは、いつもこうして歩くのである。
 縁日は一通りざっと見た。けれども勝田は、うちの方へ歩をむけない。狭い通りを、淋しい川岸の方へ歩いてゆく。
 「どこへゆくの」ときくと「まあこいよ」と大ように答える。
 その中に二人は、石をつんであるところへ来た。大きな花崗岩や安山岩が、行儀よくつみかさねられて、その間に又細い路がついている。この細い路へはいると、勝田は立止った。両側とも石が可成高くつんであるから、空が細長く見える。その空には天の川が、煙のように流れていた。
 勝田は、ぐっと力をいれて清をひきよせると、耳の近くヘ口をよせて「おい□□□□□をかせよ、な、いいだろう」と云った。清は強い恐怖を感じた。色の白い顔を斜にふって、拒む意をしめした。が実は□□□□□を借すと云うことが、どんな事だか、よくわからなかったのである。唯それが、漠然と悪い事のように考えられたのである。
 勝田は上眼をつかって「いいだろう、なっ、かさなければ俺だって考えはあるんだぜ。なっ、いいだろう」と繰返した。そうして、その言が完る時には、もう左の手で清の首から胸をささえながら、右の手で裾をまくりかけたのである。
 清は「よし給えよ、人が来るようだから、ねっ、よし給えってば」と低い声で言った。実際は、人が来るような気はいがなかったのである。勝田は一寸手をとどめて、耳をすました。そしてすぐ又、清の背中の上に掩いかかるようにして「なっ、かせって事よ」と云った。
「よし給えよ、僕はうちで叱られるから、よし給えってば、ねっ」
「うちへは黙ってるさ、誰にも知らさなければいいじゃないか」
「だって」
「黙ってりゃいいだろう」
すぐ勝田の手が動こうとする。清はおいかけるように「だけど僕はいやだもの」と云った。
 「いやならいいさ、いいけれども俺だって、そうなれば考えはあるぜ、なっ、だからかせよ。だまってりゃいいじゃないか、なっ」
その中に、勝田はもう清の下ばきの紐をといた。ずるずるとずるこけて落ちる、ネルの下ばきを清は気味わるく感じた。まくられた腰から下がうすら寒い。
 清は羞恥と恐怖で、顏を赤めた。何だかすべてが、夢の中の事のような気がする。勝田の手が◯◯◯◯◯の上を、何度もなでた。さうするとそこが冷くなつた。どうも洩れたらしい。
 すると勝田は、自分の上半身の重量を清の小さな体の上に託して、清を下へ押しふせるようにした。 清は中腰になって丁度、蛙を立てたような形になった。其時、勝田の左手は、後からしっかりと清をだきしめた。清は直に◯◯◯◯◯にSOMETHINGの触れたのを感じた。触れたばかりではない。それが非常な力で、内へ押し入れられるのを感じた。
 そして、殆どそれと同時に、勝田の右の手が、淸の△△△△△をとらえた手が、巧にこぐように動かされると、△△△△△に快い感じを以て✕✕✕✕✕した。清はその✕✕✕✕✕したのが、何となく淺間しかった。
 すると清は、可成な太さのものが、可成の深さを以て◯◯◯◯◯にはいったので、一種の疼痛を感じた。最もそれより前に、不気味な感じは、絶えず生じていたのである。
 「いたい」勝田は黙っている。「あいた、いたい」「がまんしろよ」。笑をふくんだ勝田の声がした。その中に、圧迫が減じたと思ふと、すぐ勝田の△△△△△は清の◯◯◯◯◯を離れた。それから同じような事が、二三度くりかえされた。
 そうして、やっと又、下ばきの紐をむすんで、元のように腕をくんであるき出すと、勝田は「ほかの奴にかしちゃいけないぜ、えっ」と云った。清はだまってうなづいた。
 其後勝田は、清を釣に誘った。そして又、船の中で□□□□□をほった。三度目には、勝田のうちの二階で、頭から毛布をかぶせてほった。
 これまでは、いつも実行される迄に清が、多少の拒絶の意を示したのである。けれども、四度目に、学校の便所のうしろでやられた時に、清はすぐ洋服のMぼたんを、はずしたのである。こうして、とうとう勝田のCHIGOになったのである。

※ローマ字表記の部分は記号にしています。芥川の作品ということで掲載しましたが、内容が思ったより過激なので今回で最後にします。

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