アンデルセン『月の物語』より
いたずらな少女
──お月様のお話です──
昨日のことです。家の軒(のき)の間にあるせまくるしい内庭を照らしてみました。
そこには雛鳥が十一羽と、親鶏が一羽いました。
そこへ小さな可愛らしい少女がやってきて、その鶏どものまわりを、ぐるぐる廻りはじめました。
鶏はびっくりして、コッコッと大きな声で啼きながら、しかしその羽根をひろげて、雛を庇ってやっていました。
そこへ、お父さんがやってきました。そしてこのいたずらな少女を叱りつけました。
私はそれきり、この事は忘れてしまって、空をながれ去ってゆきました。
それから数分の後でしたが、またその内庭を照らしました。今度はまったく静まりかえっていました。
ところが、突然また例の少女が、足音をひそまえながら、そっと鶏小屋にちかよってきました。そして、閂(かんぬき)をはずして、親と雛の鶏のところにしのび込みました。
寝ていた鶏はびっくりして啼き叫んで飛び廻ります。少女はその後を追いかけ廻すのです。
私は壁のすき間からそれを眺めながら、どうも仕方のないいたずらっ子だな、と思っていますと、またお父さんがやって来ました。そして、その少女の腕を掴まえながら、さっきより一層ひどく叱りつけました。
少女は顔をあげて、私をみあげました。その真珠のような瞳からは、大粒の涙が流れていました。
『お前は何をしているのだ?』
と、お父さんに聞かれて、少女はまだ泣きじゃくりながら、
『あたし、鶏さんに、「さっきのことは御免ね」って、あやまりにきたの…』
お父さんはこの無邪気な少女を抱きあげて接吻しました。
私も、あたりいちめんを月のひかりで接吻いたしました。
※昨日(9月21日)の満月の写真をいれる予定でしたが、月はあいにく黒い雲に隠れて見えませんでした。
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