2015年5月28日木曜日

次の本ができるまで その2


昔の逸話を集めた本を作ろうと考えたことがありました。タイトルは「しかじかの世」。
今回はそこに掲載予定だった話を二つ。

〈大きいものと小さいもの〉

秀吉がある時、連歌師の紹巴を召し、

  須彌山に腰打ちかけて大空をぐっと呑めども咽にさわらず

「どうじゃ、これより大きな歌はあるか」と言うと、紹巴ただちに

  須彌山に腰打ちかけてのむ人をまつげの先でつきこかしけり

と詠んで秀吉を喜ばせたということです。

また別の時、秀吉が「一番小さい歌を詠んだものに褒美をとらせる」と
言ったら誰かが

  芥子粒の中くり抜いて家を建て奥の一間で書見書き物

と詠みました。これを受けて曽呂利新左衛門は

  芥子粒の中に家建て書見する人にとまったノミの金玉

と詠み、まんまとご褒美を頂戴しました。

              ●

連歌師宗祇が修行の時の話です。山中で見ず知らずの三人とすれ違った際、
一人が言いました。

  一つあるもの三つに見えけり

すぐに宗祇は、

  類いなき小袖のえりの綻びて

又次の者が言いました、

  二つあるもの四つに見えけり

又宗祇は、

  月と日と入江の水に影さして

又一人が言いました、

  五つあるもの一つ見えけり

又宗祇は、

  月にさす其指ばかり顕わして

三句ともに聞きて後、三人はどこかへ去って行きました。

まさに言葉による真剣勝負の気迫を感じます。

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