架空の楽園
人生に全く満足することに失敗すると、人は想像によってその償いをする。
どうせ駄目だろうというので、いろいろの人間本来の欲望を断つことになるのだが、しかし人間は大かた断念しきれるものではない。
それで、名誉欲、権勢欲、愛欲がさまたげられると、幻想を追うことで自分をあざむくのである。現実に背を向け、そうして故障や邪魔なしに欲望を満たすことのできる架空の楽園へ行く。
そしてこのような心的作用が、非常に価値のあるものだと云って見栄を張る。想像を駆使することが、人間の最も崇高な働きであるように思い込む。
それでもやはり想像することは即ち失敗することなのだ。
つまり実在に出あうのに敗れたことの承認だからである。
※S・モーム『作家の手帳』の中の一文。「架空の楽園」という言葉が気になったので。
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