2022年6月24日金曜日

次の本が出来るまで その245

 私の日常道徳 菊池寛


一、私は自分より富んでいる人からは、何でも欣んで貰うことにしてある。何の遠慮もなしに、御馳走にもなる。総じて私は人から物を呉れるとき遠慮はしない。お互いに、人に物をやったり、快く貰ったりすることは人生を明るくするからだ。貰うものは快く貰い、やる物は快くやりたい。


一、他人の御馳走になるときは出来るだけ沢山食べる。そんなとき、まずいものをおいしいという必要はないが、おいしいものは明らかに口に出してそう云う。

一、私は生活費以外の金は誰にも貸さないことにしてある。生活費なら貸す。だが友人知己それぞれ心の内に金額を定めていて、この人のためには此位出しても惜しくないと思う金額だけしか貸さない。貸した以上、払って貰うことを考えたことはない。また払ってくれた人もない。


一、人への親切、世話は、慰みとしてしたい。義務としてはしたくない。

一、自分に好意を持っていてくれる人には、自分は好意を持ち返す。悪意を持っている人には悪意を持ち返す。

一、作品の批評を求められたとき、悪い物は死んでもいいとは云わない。どんなに相手の感情を害しても。だが、少しいいと思う物を、相手を奨励する意味で、誇張して賞めることはする。

※菊池寛の人柄が表れている文章。

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